リーガルテック(LegalTech)は法律(リーガル・Legal)と技術(テクノロジー・Technology)を組み合わせた造語です。最新のIT技術で法律業務を効率化するサービスの総称で、近年さまざまなリーガルテック企業が設立されています。
実際にどんなサービスを提供するリーガルテック企業があるのでしょうか。リーガルテック企業ではどんな人が求められて、どうすれば転職できるかを紹介します。
目次
リーガルテックの概要
リーガルテックの起源はアメリカです。判例のリサーチやディスカバリー制度(電子証拠開示)に活用されるところから始まりました。訴訟大国アメリカでは、訴訟準備の効率化が必要とされており、その結果リーガルテックが他国に先がけて発展したのです。
参考:情報センター
注目の背景
日本でも「働き方改革」の影響を受けて、残業時間の制限で事務効率化が求められるようになりました。紙ベースの契約書は保管も検索も大変なので、電子契約書に切り替えたりデータで保存したりする企業もここ数年で増えてきました。
特に2020年のコロナ禍では、リモートワークが増えましたが、紙の契約書類に印鑑を押印して取引先に送付するというアナログな方法が見直された企業も増えたのではないでしょうか。電子印鑑サービスが急速に普及したことを実感している方も多いでしょう。
リーガルテックと弁護士の関わり
リーガルテック企業では、弁護士が起業して代表取締役、もしくは取締役に弁護士が就任していることがほとんどです。たとえば、法律専門書のデータベースを検索できるLEGAL LIBRARYを運営する株式会社LegalTechnologyの代表取締役は弁護士の二木康晴氏です。
AI契約書レビュー支援ソフトウェアなどを提供する株式会社Legal Forceの代表取締役も森・濱田松本法律事務所出身の弁護士、角田望氏です。法律知識が必要なので顧問弁護士という形ではなく、弁護士自らが商品開発などに関わるのが一般的です。
リーガルテックの国内需要
株式会社矢野経済研究所の調査によると、
- 2016年のリーガルテック国内市場は184億円
- 2017年は198億円と順調に伸び
- 2018年のリーガルテック国内市場規模は前年比115.2%の228億円
になったとのことです。2023年には353億円の市場になっていることが予想されます。
特に電子契約サービスが好調で、2018年の国内市場規模(事業者売上高ベース)は、前年比139.3%の39億円でした。電子契約サービスは、印紙代や郵送費など目に見えるコストの削減を理由に導入が進んできましたが、契約締結スピードの向上や契約手続に関する工数(契約書作成、郵送に要する時間など)の削減などの業務効率化が理由の導入が増えてきています。
少子高齢化や働き方改革により、日本企業はますます業務効率化を求めることが予想されます。今後は中小企業でも電子契約サービスの導入が進むと考えると、さらにリーガルテック市場は伸びるでしょう。
参考:株式会社矢野経済研究所
リーガルテックサービスを提供する主な企業
リーガルテックサービスを提供する主な企業を紹介します。
サーチ系
法律にまつわる資料の閲覧を可能にするサービスを提供する「サーチ系」のリーガルテック企業を紹介します。
Legal Library
株式会社Legal Technologyが運営する「Legal Library(リーガル ライブラリー)」は法律専門書や官公庁等の各種資料を横断的に検索閲覧できるサービスを提供しているリーガルテック企業です。
従来のリーガルリサーチは、信頼できる法律専門書等を参考にするしかありませんでしたが、 法律専門書は情報の検索が困難です。また、インターネット上にもさまざまな情報はありますが、信頼できる情報がすべてという訳ではありません。
その点、Legal Libraryは、法律専門書や官公庁等が作成している各種資料を約10万ページにわたってデータベース化しています。
参考:Legal Library
弁護士ドットコム
弁護士ドットコム株式会社が運営する「弁護士ドットコム」は、登録弁護士数17,000人(弁護士の3人に1人超)、月間サイト訪問者数1,500万人の日本最大級のプラットフォームです。
相談者は弁護士に無料で相談することができ、閲覧者は過去の相談者の相談を参考にできます。弁護士としては、相談者の質問に回答することで多くの潜在的な相談者の目に触れることができ宣伝になります。
参考:弁護士ドットコム
Legal Search
リーガルテック株式会社が運営する「Legal Search(リーガル サーチ)」は、法令・判例検索、知財訴訟検索、特許検索ができるサービスを提供しています。1999年よりさまざまなリーガルテックツールとサービスで捜査機関の依頼を受けており、リーガルテック企業としては歴史のある会社です。
参考:Legal Search
契約系
電子契約書や電子印鑑などのサービスを提供する「契約系」のリーガルテック企業を紹介します。
CLOUD SIGN(クラウドサイン)
弁護士ドットコム株式会社が運営する「CLOUD SIGN(クラウド サイン)」は、日本の法律に特化した弁護士監修の電子契約サービスを提供しています。紙ベースの契約書は紙代・インク代・印紙代などがかかりますが、電子契約サービスではそのコストを削減できます。
また、紙ベースの契約書は保管の場所を取りますし、探すのが面倒ですがデータベース化することで手間を省けます。何より、契約までのスピードが上がるのが最大のメリットでしょう。
契約は、契約書の準備・取引先への確認依頼・取引先の押印すべてがオンラインで完結します。大手企業を始め、電子契約利用企業の約80%がクラウドサインを利用しているのは信頼されている証拠でしょう。
参考:CLOUD SIGN
DocuSign
DocuSign(ドキュサイン)は、利用者数世界No1の電子署名サービスを提供しています。アメリカのサービスで、個人向け・企業向け・企業向け(Pro)の3つのプランが用意されています。
参考:DocuSign
ホームズクラウド
株式会社Holmesの契約マネジメントシステム「ホームズクラウド」では、契約書作成・契約書管理・電子締結・契約書更新・契約プロセス構築・承認フロー構築・業務進捗管理などができます。契約書作成・管理だけのサービスを提供する企業に比べて利用できる機能が多いのが特徴といえます。
参考:ホームズクラウド
審査・登録系
契約書類などの審査・登録をしてくれるリーガルテックサービスを提供してくれるリーガルテック企業を紹介します。
Legal Force
株式会社Legal Forceは、クラウド契約書レビュー支援ソフトウェア「Legal Force」などの商品を提供しています。AIで契約書のレビューをしてくれるので、契約書に潜む潜在的なリスクを知ることができますし、法務職による業務品質の差を埋めることができる点で評価されています。
弁護士が監修しており、500 を超える企業の法務部や法律事務所で導入されました。
参考:Legal Force
AI-CON
GVA TECH株式会社の「AI-CON」は、売買契約書・秘密保持契約書・業務委託契約書など16種類の契約書のチェックができるサービスを提供してくれます。契約書をアップロードすることでAI-CONが契約書類をチェック、チェック結果をもとに修正していきます。
このようなチェック機能を利用することで契約リスクを劇的に減らすことが可能です。契約書のリスクについては不利・中間・有利などわかりやすく表記されます。
法務機能を所有しない中小企業やベンチャー企業が導入することで、法律のスペシャリストを雇用するコストを削減することも可能です。
参考:AI-CON
Toreru
株式会社Toreruでは、商標登録がオンラインで取得できるリーガルテックサービス「Toreru」を提供しています。出願手数料は9,800円という圧倒的なコストパフォーマンスですが、経験豊富な弁護士チームがサポートしてくれるので安心です。出願に対する調査や相談は無料で受け付けてくれます。10,000社以上の企業・大学がToreruのサービスを利用しています。
参考: Toreru
法律事務系
法律事務所での業務を効率化させるためのリーガルテックサービスを提供する企業を紹介します。
firmee
合同会社firmeeが運営するfirmee(ファーミー)は、法律事務所に特化したクラウド型事件管理システムを提供しています。代表取締役の弁護士である井桁大介氏がアメリカでクラウド型の法律事務所支援サービスの普及を目にしたことをきっかけにこのようなサービスが開発されました。
参考:合同会社firmee
LEARA
株式会社LEALAでは、法律事務所向けクラウド案件管理ソフトLEALAを提供しています。導入することにより業務効率化やリモートワーク、情報の一元化、業務品質の向上、経営の最適化が可能となります。
参考:株式会社LEALA
紛争・訴訟系
紛争・訴訟を効率化させるためのリーガルテックサービスを提供する企業を紹介します。
LEGAL FUNDING
一般社団法人リーガルファンディングが運営する「LEGAL FUNDING」は、訴訟などの解決に向けて動きたくても活動資金が足りないと困っている人を、募金で支援するクラウドファンディングサービスを提供しています。すべてのプロジェクトには審査委員会の審査を受け、担当弁護士が付きサポートしてくれるのが特徴です。
参考:LEGAL FUNDING
遺言書.com
株式会社Documentary Technologiesが運営する「遺言書.com」では、相続人と財産を入力することで遺言書の作成が簡単にできるサービスを提供しています。相続では遺言書をのこしておかなければ相続人同士でトラブルになることが多く、調停や審判となれば親族間に亀裂が生まれるのは不可避です。このような事態を避けるためにも遺言書の作成は必須ですし、簡単に遺言書を作成できるのは画期的といえるでしょう。
参考:遺言書.com
リーガルテック企業に転職するために必要な知識
リーガルテック企業に転職するために必要な知識について紹介します。
最低限の法律知識
法務サービスを提供するにあたり、法務知識は必須なので法務知識がある人材はリーガルテック企業で優遇されます。弁護士資格があると一番良いですが、法務職・パラリーガル経験者に対する求人もあります。
IT知識
リーガルテック企業にはエンジニアやプログラマーなどのIT知識がある存在も不可欠です。弁護士とエンジニアで協同してリーガルテックのシステムを開発していく人材は大切だからです。市場も伸びてリーガルテックの将来性は明るいので、IT知識に自信がある方は挑戦してみてはいかがでしょうか。
リーガルテック企業の年収水準
法律の専門知識もITの専門知識も評価されやすいこともあり、リーガルテック企業の年収水準は比較的高めです。リーガルテック株式会社の求人情報を見てみると、弁護士資格を保有している転職希望者の年収は400万円〜800万円です。
参考:リーガルテック
また、株式会社Legal Forceの法務コンテンツ開発では、法務職・パラリーガルの経験者を求めており、年収は350万円〜600万円となっていました。また、エンジニアについては経験に合わせて500万円〜1,000万円に設定されていることが多いようです。
前職の経験にもよりますが、法務系で働くとしても、エンジニアとして働くとしても、一般的な会社員に比べると高収入になるでしょう。
リーガルテック企業に転職する方法
リーガルテック企業に転職するにはどうすれば良いかを紹介します。
転職エージェント
リーガルテック企業に転職したいのであれば、転職エージェントを利用するのも一つです。転職エージェントでは転職希望者の希望の年収や労働条件などをヒアリング後、希望に近い求人をマッチングしてくれます。リーガルテックの企業の求人があり、転職希望者のスキルが条件に満たしていれば、書類審査・面接に進めます。
転職エージェントを利用すると、担当のキャリアアドバイザーがつき、履歴書や職務経歴書の書き方や面接のコツを伝授などさまざまなサポートをしてくれます。少し条件に合わなくても求人企業に他のスキルや魅力を伝えるなどして面接に漕ぎ着ける可能性が他の転職方法と比べると高いです。
転職エージェントによって保有している求人も異なるので、複数の転職エージェントに登録して見比べた方がいいのではないでしょうか。
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求人サイト
求人サイトでは、登録のある求人情報を勤務地・年収・キーワードなどで絞って検索できます。さまざまな企業の求人が一覧に出るので見比べやすく、気に入った求人があれば求人サイトのフローに沿ってエントリーします。転職サイトとは異なり、登録をしておいて自分の気に入った求人がある時だけアクションを起こせるのも求人サイトを利用する魅力です。
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紹介
リーガルテックの企業はベンチャー企業がほとんどで、人手不足であることが多いです。そのため、すでに働いている人から声がかかるなど紹介により転職することもあるでしょう。「リファラル採用」といって、転職者を紹介してくれた社員に対してお礼の金銭を渡す形の採用方法を導入している企業もあります。
ダイレクトリクルーティング
ダイレクトリクルーティングとは、企業が直接求職者へアプローチする方法です。たとえば、Wantedlyなどのプラットフォームでダイレクトリクルーティングは行われます。転職希望者が求人に対して「興味がある」「話を聞きたい」という意思表示があった場合に、魅力的な求人者に対して企業からアプローチします。
また、SNSでも経歴など公表して活躍している人に対してDMを送るなどしてアプローチができます。
このように企業が攻めの姿勢で行うダイレクトリクルーティングは増えているので、自身が魅力的に映る発信やプロフィールの作成などを日頃から行うことが大切です。
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未経験からのリーガルテック企業への転職は可能か?
リーガルテック企業に入社するためには、法律知識かIT知識のどちらかは必須といえます。そのため、弁護士資格を所有するか、エンジニアやプログラマーとしてシステムの開発ができるようなIT知識を保有している場合は有利に働きます。
しかし、必ずしも弁護士資格やIT知識が必要という訳ではありません。実際の求人を見てみると、弁護士経験がなくてもパラリーガル経験者を募集している企業もあります。
現状法律知識やIT知識がなく、将来的にリーガルテック企業で働きたいと思っているであれば、キャリア形成のためにパラリーガルを経験してみてから挑戦してみてはいかがでしょうか。
参考:パラリーガル認定資格講座。専門事務職法律事務。多数の実績。初学習でも安心のカリキュラム|AG法律アカデミー
まとめ
働き方改革により、事務効率化に焦点が当たり、日本国内のリーガルテック市場は急激に伸びています。コロナ禍によるリーモートワ-クが進んだことも後押しし、リーガルテック市場の将来性は非常に明るいといえるでしょう。
リーガルテック企業はほとんどが弁護士により起業されています。リーガルテック企業に転職したいのであれば弁護士資格やパラリーガル・法務職経験があった方が有利でしょう。
また、リーガルテック企業ではシステム構築のためにIT知識を持ったエンジニアやプログラマーなどの採用も盛んです。リーガルテック企業は、年収水準も高く、将来性も明るいので、是非転職活動で挑戦してみてはいかがでしょうか。