社会系国家資格の中でも人気がありかつ難易度も高いとされている司法書士と行政書士。ドラマで取り上げられていたり、新聞や電車の広告で見かけることも多いですから、何度かは目についたこともあるでしょう。
しかし、この2つの資格の違いや特色について、具体的に説明できる人はあまりいません。これらの試験の受験者ですら説明できないでしょう。
今回は、2つの資格について、業務内容・試験内容・年収の3方面からスポットをあて分析してみたいと思います。
目次
司法書士と行政書士の主な業務内容
まずは、それぞれの資格の主な業務内容について見ていきましょう。
司法書士の主な業務内容
司法書士は、法務局や裁判所に提出する書類の作成を主な業務内容としています。
具体的には、
- 登記あるいは供託に関する手続きの代理
- 裁判所、検察庁または法務局(登記、供託など)に提出する書類の作成
- 法務局長に対する登記または供託に関する審査請求の代理
- 簡易訴訟代理等関係業務(認定司法書士に登録した場合)
- 上記すべての業務に関する相談
などですが、代表的な業務は、この法務局に提出する登記・供託関連業務です。登記・供託関連業務の登記・供託関連業務は、法律や各種法令など細かなルールを守らなければならず司法書士の専業業務とされています。行政書士は、たとえ知識があっても登記・供託に関する書類の作成や、代理人として提出・相談を業として行ってはいけません。
登記
不動産登記であれば誰のものであるかや、住宅ローンなどの抵当権は付いているのかなどの事柄が、誰にでも分かるように記録してある書類のことをいいます。また商業登記であれば、社名や本店の住所、役員が誰であるかといった会社にとって重要な事柄が記録してある書類のことをいいます。
供託
例えば家賃を支払ったり・お金を支払うとき、相手と金額について争いがあったり、居場所がわからない場合に、支払うべきお金を法務局に預かってもらう手続きのことをさします。この手続きを経ることにより、お金を払ったことと同じ効果が発生し、債務者側としては無駄な遅延損害金の発生を防ぐことができます。
司法書士は、登記・供託関連業務以外にも、裁判所や検察庁に提出する書類の作成を行うことができます。
司法書士にしかできない業務
また、司法書士の登録後、研修を受け合格したものは、認定司法書士として簡易裁判所が扱う事件においては、書類の作成だけでなく、本人の代理人として裁判諸手続きを行うことができます。
これらの業務についても、行政書士は業務として一部の例外を除き、行うことができません。
また、行政書士は、上記の各業務に関する事柄について、依頼者から相談を受け、適切なアドバイスをすること行ってはなりません。従って、法律家という視点から捉えた場合、行政書士より司法書士の方に軍配があがりそうです。
行政書士の主な業務内容
自動車を運転するには自動車免許を取得しなければならないのと同様、私たちが何か事業を始めようとした際、事前に許可・認可が必要な業種があります。飲食店や建設業などがその代表例でしょうか。
行政書士はこれら、官公署に提出する許認可等の書類の作成や代理、これらの業務の相談業務を主な業務内容としてあります。
司法書士の「官公庁に提出する書類の作成や代理」という点では非常に似ています。
ザックリと分類すると
- 書類の提出先が裁判所、法務局関連の場合:司法書士
- 法務省・以外の省庁や、地方自治体関連の場合:行政書士
と分類することができます。
またそれ以外にも契約書や離婚協議書など、私たちの身の回りの出来事を記録したり、相手に通知する書類の作成や相談業務を行うこともできます。これらの業務のことを行政書士法では、「権利義務又は事実証明に関する書類の作成、そして、これらの書類を作成する上での相談業務」と表現されています。
ただし、業務として行うのはあくまで書類の作成のみで、離婚や相続問題など、相手方と意見に違いがあり争っている場合には、相手方と交渉を行うことはできません。
司法書士と行政書士の業務上の主な違い
では、具体的な業務の違いについて見ていきましょう。
相続業務における違い
私たちで一番身近な法律手続きといえば、相続業務でしょうか。身近な人が亡くなった際に行う相続手続きの主な流れは下記の通りです。
- 相続人の確定
- 相続財産の調査
- 遺言書の確認
- 遺産分割協議書の作成の有無
- 預貯金や登記の手続き
これらの手続きは、専門家に頼まず、自分たちでも行うことができます。しかし、ほとんど全てといっていいほど、市区町村役場や金融機関は平日しか開いておらず、仕事をしている人がこれらの作業をやることは不可能とまではいえないものの、かなり時間的制約が発生します。
また、細かく分類すると50項目以上も相続に関する諸手続きはあります。素人ですと必ずミスや本来やらなければならないのにやっていない手続きがあります。そこで、「餅は餅屋」ということわざがある通り、相続に関する諸手続きを専門家に依頼するケースもあります。
司法書士しかできない業務も多い
上記で述べた相続諸手続きのほとんどは、司法書士でも行政書士でも行うことができます。しかし、相続財産に不動産がある場合や、相続人同士で争いがある場合は話は別です。
不動産の名義変更は、上記「司法書士の主な業務内容」で述べた通り、登記関連の業務です。行政書士は行うことができません。
また、相続人同士で話し合いが決着せず、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることとなったときも、行政書士の権限外の業務となることに注意が必要です(※)。
※司法書士が行えるのも、家庭裁判所に提出する書類の作成のみで、本人の代わりに代理人となって裁判所に行くことはできません。
会社設立時の違い
会社を設立する場合、
- 定款を作る
- 1で作成した定款を公証役場で認証してもらう
- 1以外の重要な要素を決める
- 法務局に登記申請を行う
という流れを踏むことになります。
このうち、1~3までは司法書士および行政書士も単独で行うことができます。しかし、4については登記関連の業務ですから、行政書士が行うことはできません。従って、会社設立をお願いしたい場合は、行政書士ではなく司法書士に依頼した方が、設立に関する手続きすべてを依頼することができ、利便性が高いといえそうです。
司法書士でも行政書士でも行うことができる業務
上記では、「司法書士が行えるが行政書士は行えない業務」について説明しましたが、もちろん司法書士でも行政書士でも行うことができる業務があります。その代表例が
- 帰化許可申請書
- 検察審査会に提出する書類の作成
- 司法警察機関に提出する告訴・告発状作成
については、法律上、司法書士でも行政書士でも行うことができます。もっとも、司法書士で帰化許可の業務をやっている人はあまりおらず、一方で検察審査会や司法警察機関に提出する書類の作成を主業務とやっている行政書士はあまり見かけません。
司法書士と行政書士の資格試験上の主な違い3つ
難易度の高さ
行政書士試験の合格率は、年によって多少のバラつきがあるものの、6%から9%といわれています。
一方で、司法書士試験の合格率は、毎年、4%前後です。この数字は司法試験と同じ位の数値で最難関の国家資格試験の内の一つです。
| 司法書士 | 行政書士 | 社会保険労務士 | 弁護士 |
合格率 | 4.39% | 11.5% | 6.6% | 33.6% |
参考
平成31年度(2019年度)司法書士試験の最終結果について(資料)
一般社団法人 行政書士資格研究センター|試験結果推移
厚生労働省|第51回社会保険労務士試験の合格者発表
日本弁護士連合会|弁護士白書2019
行政書士試験は、司法書士に比べ「資格を取ることを目的」としている人だけでなく、「就職や転職に有利に働くから」を目的として受験している人も少なくありません。
試験を受験する人の目的は人それぞれですし、個人の自由です。ただ、就職や転職に有利に働くことを目的としている受験生の多くは、試験勉強に力を入れていないことや、そもそも受験の申し込みをするのみで実際には試験を受けていない人も一定数存在し、合格率を引き下げている原因となっているのも事実です。
出願者数 16,811人
受験者数 13,683人(午前の部及び午後の部の双方を受験した者の数をいう。)
合格者数 601人(男466人・77.5% 女135人・22.5%)
引用元:平成31年度(2019年度)司法書士試験の最終結果について
予備校のカリキュラムでは、行政書士は全くの法律初心者でも8か月前後でカリキュラムを組んでいるのに対し、司法書士の場合は、2年単位でカリキュラムを組んでいる場合もあります。
このことから、試験の難易度の高さは司法書士>行政書士であることは間違いなさそうです。
試験科目
行政書士試験の試験科目は、「法令等科目」と「一般知識等科目」に分かれ、下記のような科目で問題が出題されます。
- 法令科目:憲法、行政法、民法、商法、基礎法学
- 一般知識:政治・経済・社会、情報通信、個人情報保護、文章理解
一方で司法書士試験の試験科目は、下記科目で問題が出題されます。
- 憲法、民法、商法、刑法、不動産登記法、商業登記法、供託法、民事訴訟法、民事執行法、民事保全法、司法書士法
司法書士の試験は、一般知識が出題されない分、法令科目が数多く出題されることがお分かり頂けたでしょうか。
また、憲法・民法・商法は両方の試験に共通する科目です。まずは行政書士受験を受け、その次のステップアップとして司法書士試験を受験する「お試し受験」の受験者数が一定数いることも、行政書士受験数が多い要因の一つとされています。
試験形式
行政書士試験の日程は、11月の中旬に行われています。
一方で司法書士試験は、7月上旬に行われています。行政書士の方が、気候が比較的穏やかな時に受験できそうです。試験会場で「冷房が効きすぎた」などといったトラブルはなさそうです。
ただ、時期以上に注意すべき点が3つあります。
- 行政書士の試験時間:3時間
- 司法書士の試験時間:午前2時間、午後3時間
司法書士の試験は午前から開始されます。受験会場が自宅から遠い場合は、かなり早い時間帯に起きなければならずコンディションにも影響が出そうです。
記述式
いわゆる文章を書かなければならない「記述式」の問題は行政書士も司法書士もそれぞれ3問前後出題されます。しかし、行政書士の記述式は1問あたり40字程度と比較的短い文章です。それに対し司法書士の試験は、実際の法務局へ登記申請を行う際の手続きについて出題され、文字数に還元すると、1問あたり1500字前後と、行政書士試験と桁違いです。
口述試験
行政書士試験は筆記試験に合格すれば、OKです。それに対し、司法書士試験は筆記試験に合格したあと、11月に実施される口述試験にも合格しなければなりません。最も、司法書士の口述試験は、筆記試験に合格した人にとっては簡単に合格できるレベルとされており、筆記試験のように何年も勉強する必要はないとされています。
司法書士と行政書士の年収の違い
では、司法書士と行政書士では年収に違いはあるのでしょうか。経済産業省や日本司法書士連合会、日本行政書士会連合会が実施している調査を分析しますと、司法書士の年収が650万円前後、行政書士の年収が600万円前後とされています。
しかし、司法書士と行政書士を兼業している方もいれば、コンサルティング業務など士業以外の業務も並行して行っている方もいます。上記の調査結果は、これらの実態を反映していません。従って、司法書士の方が行政書士より年収が高い、とは明確に結論づけることはできないようです。
まとめ
同じ士業かつ法律系の資格である司法書士と行政書士。書類の作成を主な職種としている点でも非常に似ています。書類の提出先の機関に違いがある位です。
しかし、司法書士の方が裁判所に提出する書類も業務として行えますから、法律家としてのイメージは司法書士に軍配があがります。
しかし、試験に限った話では、試験時間・試験形式ともに司法書士の方がはるかに難易度が高く、合格率も低いです。
年収面については、対した差額はありません(どちらかといえば司法書士の方が年収が高いとされています)。
仕事内容、試験内容、年収を総合的に分析すると、試験内容でかなりの差があるものの、他の要素ではどちらかの方の資格が優れているとは言えなさそうです。
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