税理士事務所ではさまざまなタイプのクライアントを受け持つことから、多様な経験を積むことができます。税理士として活躍するための足掛かりとなり、独立や大手企業への転職などキャリアの幅も広げられるでしょう。
一方で、残業の多さや人間関係で悩む人が少なくないなど、ネガティブな情報を耳にすることも多々あります。転職活動にあたっては「ブラック事務所を避けたい」「働きやすい事務所を探したい」と感じるのではないでしょうか。
そこでこの記事では税理士事務所への転職を考えている方へ向けて、業界の特徴や優良事務所を見極めるポイント、転職に適した時期を中心に解説します。
目次
税理士事務所の転職事情|転職前に知っておくべきこと
まずは、税理士業界ならではの特徴を知っておきましょう。
繁忙期と閑散期の差が大きい
繁忙期と閑散期の差が大きいのが特徴です。ここを理解しておかないと、繁忙期だけを取り上げて「ブラックだ」と感じ、不満が生じる可能性があります。税理士事務所によって一律ではありませんが、おおむね年末からの数ヶ月は忙しくなります。12月~1月は年末調整や法定調書の作成、2月~3月は確定申告、4月~5月は3月決算法人の申告業務があります。
したがって、税理士事務所への転職を考えている方で「1年を通じてまったく残業できない」場合は、転職先は限られてきます。ただしパートや派遣など雇用形態にこだわらないのであれば、残業できないことを前提に採用される可能性は十分にあるでしょう。
繁忙期を過ぎると比較的余裕をもって業務にあたれる時期が続くため、全体をならして残業はどの程度あるのかを確認することが大切です。また繁忙期だからといって体調が悪いのに休ませてもらえない、子どもが病気で帰りたいのに帰らせてもらえないなど、融通が利かなすぎるのは問題です。
転職する際は、時期的な残業は覚悟しつつ、難しい場合にどの程度許容してもらえるのかという視点が必要になります。
事務所規模の違いによるメリット・デメリット
税理士事務所は規模によって雰囲気や働き方が大きく変わります。税理士事務所の多くは零細企業で、従業員が10人未満の事務所もざらにあります。規模が小さいとアットホームな雰囲気だったり、試験勉強との両立に融通を効かせてくれたりといったメリットがあります。
一方で、教育体制の構築が難しい、給与や待遇には期待できないなどデメリットも存在します。人間関係の良し悪しが職場環境に影響しやすい点もデメリットです。
10人~20人規模になれば比較的大きな事務所となり、大手や準大手と呼ばれる事務所では50人~100人規模になってきます。規模が大きくなるほどクライアントの業種も多様化し、幅広い経験を積むことができます。
給与や福利厚生にも恵まれ、教育制度も充実してきますが、年功序列的な慣習が根付いているなど組織ならではの不満も感じやすくなります。
税理士事務所はコンサルタント職
事業会社の経理などからの転職を考えている方は、税理士事務所はサービス業である点を知っておきましょう。クライアントに出向き、経営者へのアドバイスをおこなう機会が多くあるなど、事務職というよりコンサルタントとしての側面が大きいといえます。転職活動ではコミュニケーション能力や見た目の清潔感なども重視されるでしょう。
また事業会社では自社の決算に向けた業務をおこないますが、税理士事務所ではクライアントの数だけ業務があります。業務の量・内容はクライアントの意向にも左右されるため、仕事において自分のペースを維持するには工夫が必要になります。
未経験で税理士事務所へ転職できる可能性
税理士事務所は税理士だけでなく税理士補助や事務スタッフといった職種も働いています。これらの職種は未経験でも募集しているケースがあるため、未経験でも税理士事務所へ転職できる可能性はあります。
ただし小さな事務所では人員数に限りがあるため、ゼロから丁寧に教えてもらえることは難しくなります。
少なくとも簿記2級か同等の経験は求められますし、未経験の場合は年齢も30代までのケースが多くなります。未経験といっても一定の条件をクリアする必要はあるでしょう。
働きやすい税理士事務所へ転職するために!事務所選びのチェックポイント
税理士業界は人材の入れ替わりが激しいといわれています。理由のひとつには、一般企業と違って情報が少なく、実際に入社してみないと労働環境を把握しにくい点があります。そこで、失敗を回避するために意識するべきポイントを紹介します。
忙しさの度合いが自分に合っているか
税理士事務所の忙しさは1人あたり何社のクライアントを受け持つのかによっておおむね変わってきます。家庭の事情などで激務を避けたい場合は、1人あたりが担当する顧問件数を聞いておくのがひとつの方法です。忙しくて構わないからとにかく多くの経験を積みたい方も、担当件数を聞く意味があるでしょう。
年齢構造と男女比率のバランスがよいか
平均年齢が何歳かよりも、年齢構造が重要です。好ましいのはベテラン・中堅・若手がバランスよくいる事務所です。とくにベテランと若手がいるが中堅スタッフがいない場合は、スタッフが育ちにくいため離職率が高い可能性があります。
また男性が多い事務所では、家庭の事情や女性特有の体調不良に理解を得られない可能性があります。反対に女性が多い職場だと男性が人間関係に苦労しやすくなるため、男女比は半々くらいが好ましいでしょう。
給与が適正な金額か
転職当初は「給与が低くても生活できれば構わない」と感じることがありますが、仕事に慣れてくると不満のもとになりやすいのが給与です。
自分の能力や働きに見合った給与が設定されているかどうかは事前によく考えておく必要があります。残業代が支給されない事務所も少なからず存在しますので、法律を当たり前に守る事務所なのかも確認しておきましょう。
税理士事務所の平均年収はどのくらい?
税理士として転職する場合の平均年収は約891万円です。※「きまって支給する現金給与額」の12ヶ月分と「年間賞与その他特別給与額は」の合計で算出。企業規模10人以上平均の場合。
※参照:e-Stat(政府統計の総合窓口)|賃金構造基本統計調査 一般労働者 表番号1
一方、税理士補助と呼ばれる科目合格者の場合は、経験年数や科目合格数によって年収300万~450万円が目安になります。科目合格数により10万~100万円程度のプラスが見込まれる場合があります。
※参照:MS-Japan|税理士事務所の平均年収を教えて下さい。
税理士の人数割合は適切か
事務所規模にもよりますが、従業員10人あたり少なくとも2~3人の税理士がいるのが好ましい。税理士が所長1人だけの場合、ご自身が税理士であればすぐに税理士として活躍できますが、多忙を極めるでしょう。そもそも事務所の業務品質が保持されていない可能性もあります。
また税理士である所長が担う実務が多いため、労働環境にまで手が回っていないと考えられます。ご自身が税理士ではない場合には税理士試験勉強との両立が難しくなるでしょう。
所長の考え方に共感できるか
少人数の税理士事務所では所長の人柄や考え方が労働環境に直接影響しやすいため、所長がどのような人なのかは非常に大切です。採用してもらえるかどうかも、所長との相性にかかっているといっても過言ではないでしょう。しかし採用してもらいたいがために無理にあわせると入社後に辛くなるため見極めが必要です。
税理士事務所への転職時期はいつがいい?
税理士事務所の転職に適した時期はあるのでしょうか。
第二新卒・ポテンシャル採用を狙える時期
ポテンシャル層は育てる必要があるため、採用が活発化するのは主に繁忙期が過ぎて落ち着いた時期です。具体的には確定申告や決算業務がひと段落する4月~6月頃と、税理士試験が終わった8月後半です。この時期は比較的ゆったりと採用活動ができるため、ポテンシャル層にも目が向けられやすいといえます。
経験者が有利になる時期
経験者は即戦力なのでどの時期でも採用にいたる可能性は高いといえます。中でも9月~10月頃は、12月以降の繁忙期に備えて経験者の採用に力を入れ始める事務所が増えてきます。4月~6月頃も繁忙期が過ぎ、クライアントの主担当を任せる人材を定期的に募集する時期なので経験者は有利になるでしょう。
繁忙期に転職する際の注意点
まずは前職との兼ね合いです。応募から実際に決まるまで1ヶ月~2ヶ月程度はかかるため、繁忙期に前職をスムーズに辞めれるのかという問題があります。また入社後すぐに繁忙期に突入する点も懸念材料です。いくら経験者でも、事務所の雰囲気に慣れないまま繁忙期を迎えれば困惑するケースが多いでしょう。周りに質問もしにくくストレスが溜まるかもしれません。
転職は思い立った時期が最適なタイミングではありますが、ご自身の考え方や現職の事情なども踏まえて転職時期を見極めましょう。
税理士特化の転職エージェントの利用が必須な理由
税理士事務所への転職を成功させるには転職エージェントを利用するべきです。優良事務所はコストをかけてでもよい人材を採用したいと考える傾向があり、無料で利用できるハローワークよりも転職エージェントで募集をかける可能性が高いからです。
転職エージェントを経由すれば、事務所の雰囲気や離職率など事前に知りたい情報を教えてもらうことができます。求人探しや面接の日程調整なども求職者に代わりにおこなうため、忙しい方でも効率よく転職活動ができるでしょう。
税理士の転職に強い転職エージェントおすすめ3選
税理士事務所への転職は、業界に特化した以下の転職エージェントの利用がおすすめです。
ジャスネットキャリア
税理士や会計士、経理職などの求人掲載数が業界最大級のエージェントです。東京・大阪・名古屋の求人が中心となるため、大都市圏での転職を考えている方に向いています。
公式サイト:https://career.jusnet.co.jp/
MS-Japan
管理部門特化型エージェントならではのノウハウの深さが特徴です。若手~管理職まで幅広い層をターゲットとしていて、大手や外資系求人も多くあります。
公式サイト:https://www.jmsc.co.jp/
マイナビ税理士
会計士や試験合格者に特化したエージェントとして、大手マイナビが運営しています。とくに若手会計士からの信頼が厚く、面談満足度も高いのが特徴です。
公式サイト:https://zeirishi.mynavi-agent.jp/
まとめ
税理士事務所には業界ならではの特徴があり、働きやすい事務所を見極めるチェックポイントは複数あります。入社後に「こんなはずではなかった」と後悔しないためにも、今回の内容を転職活動に役立ててください。業界に特化した転職エージェントを利用すれば事務所の詳細な情報や転職活動のサポートが得られますので、あわせて活用しましょう。