税理士事務所への転職を考えている方の中でも、具体的な仕事内容まではわからないという方が多いのではないでしょうか。
とくに税理士事務所とかかわる機会がない方は「税金の相談をする仕事」「税金に関する事務をする仕事」くらいのイメージしかないかもしれません。
税理士事務所の仕事は確かに多くの事務手続をともなうものですが、一般的にイメージされる事務作業とは大きく異なるといえるでしょう。
税理士事務所への転職を希望する方は事前に仕事内容を知り、イメージとのギャップをなくすことが大切です。この記事では税理士事務所の仕事内容を紹介します。
目次
税理士事務所の仕事内容6つ
税理士事務所は主に中小企業をクライアントとしています。そして中小企業の経理業務を代わりにおこなうのが税理士事務所の大きな仕事のひとつです。したがって、企業の経理業務について流れを知っておく必要があります。
経理業務は企業の経済活動を支える仕事ですが、おおまかにいえば次の業務を繰り返します。
- 会計資料をもとに日々の取引を会計ソフトへ入力
- 1ヶ月の試算表を作成して経営者などへ報告
- 1年に1回の決算書の作成・提出、税務申告
一般に大企業では専門知識をもった経理部門があるため税務申告までの一連の業務をおこなえますが、中小企業では人員の関係から自社で完結できないケースが多々あります。
そこで税理士事務所が代理人となり、中小企業の税務申告書類などを作成して提出するというわけです。
経理業務の代行は税理士事務所の仕事内容でも大きなウエイトを占めます。ひとつの税理士事務所で多数のクライアント企業があるため、まずは上記の業務が企業の数だけ発生するというイメージでよいでしょう。
巡回監査
月に1回、クライアント企業へ訪問して会計帳簿の整合性をチェックする業務を巡回監査といいます。企業の経理担当者は、簿記という方法を用いて日々の取引を会計ソフトに仕訳入力してくれています。
そして税理士事務所の職員が訪問し、レシートや領収書・伝票・通帳などの会計資料と照合し、正しく入力できているのかを確認します。
チェックが終わったら月次の試算表データを経営者に報告し、データをもとに今後の方向性を一緒に考えたり、会計・税務上のアドバイスをおこなったりします。
記帳代行
人手が足りない、入力の手間が面倒などの理由から、仕訳入力を税理士事務所が代行する場合があります。この業務を記帳代行といいます。記帳代行は税理士事務所の仕事の中でもっとも基本的なもので、新人が最初に任される仕事でもあります。内勤の事務スタッフもおこないます。
ただし、どの勘定科目を使うか、貸借どちらに入力するのかを考えながら入力するため、簿記の知識が必要となります。また税理士事務所では記帳代行の作業量が多いのが一般的で、正確性だけでなくスピードも求められます。
地味な仕事に思えるかもしれませんが、決算書につながる重要な仕事でミスも許されません。
もっとも、近年はクラウド会計によって自動のデータ取り込みができるようになっているため、クラウド会計の導入がすすむ税理士事務所では少なくなっている仕事でもあります。
事務所によってクラウド会計に力を入れているところと、そうでないところがあります。転職の際にはこの点も聞いてみると仕事内容を知るヒントになるでしょう。
勤怠管理、給与計算
人事・総務課が担当する勤怠管理や給与計算についても、税理士事務所が代行するケースは多くあります。本来、人事・総務と経理の仕事内容は違いますが、両者の業務は関連性が非常に高いといえるからです。
勤怠管理は給与計算の前提となるものですし、給与計算は所得税の計算やその先にある年末調整、法定調書の作成へとつながります。
とくに年末調整業務は税金の知識が必須なので、給与計算とあわせて税理士事務所に依頼する企業も少なくありません。
なお、人事・総務の業務に関連して労働保険や社会保険の手続も代行する税理士事務所があります。ただしこれらの手続業務は社労士の独占業務にあたるため、税理士事務所に社労士が在籍しているものだと考えられるでしょう。
比較的規模の大きい税理士事務所であれば、税理士以外の士業とも連携し、企業の業務を一括で請け負っている場合があります。
税理士事務所で特定のシーズンに発生する仕事3つ
毎月発生する仕事に加え、特定のシーズンに集中する仕事もあります。税理士事務所は繁忙期と閑散期の差が激しいといわれるゆえんです。
企業の決算申告業務
企業は1年間の収入や経費をまとめた決算書を作成し、それにもとづき税務申告書を提出する必要があります。これを代わりにおこなうのが税理士事務所です。作業量としてはかなり膨大なものとなります。
決算書と申告書の提出期限は決算日から2ヶ月後以内とされており、決算月は会社ごとに異なります。日本では3月決算の企業が多いため、主には4月に決算業務、5月に税務申告業務が集中しやすくなるでしょう。
ただクライアント企業の業種が偏っている場合など、別の月に集中するというケースもあります。
個人事業主の確定申告業務
税理士事務所のスタンスにもよりますが、個人事業主を顧客としている事務所もあります。個人事業主は確定申告を通じて税務申告をする必要がありますが、忙しい、手続がよくわからないなどの理由で税理士事務所へ依頼する方もいます。
典型的には地元の小さな飲食店や理髪店などの店主が該当するでしょう。確定申告の期限は3月中旬なので、2月~3月にかけて依頼が集中すると税理士事務所も忙しくなります。
企業に勤める従業員の年末調整
従業員が毎月受けとる給与からは所得税が引かれていますが、あくまでも概算なので最終的には1年分の過不足を計算して調整をおこない、納税額を確定させます。これを年末調整といいます。
税額の計算に間違いがあってはいけませんし、従業員ごとに提出された書類をチェックするのは大変な作業です。そこで税理士事務所へ年末調整業務を任せる企業があるのです。
年末調整では書類のチェックや年税額の計算、源泉徴収票の発行、法定調書や給与支払報告書の作成などをおこないます。書類の回収なども含めると11月くらいから業務が発生し、12月~1月が繁忙期となります。
税理士事務所の職種によって異なる仕事内容
税理士事務所の仕事内容は職種によって異なるため、まずは自分がどの職種で転職したいのかを整理する必要があります。税理士事務所では主に「税理士」「税理士補助」「内勤の事務スタッフ」が働いています。
税理士
税理士は税理士法第2条で「税務の代理」「税務書類の作成代行」「税務相談」という3つの独占業務が認められています。独占業務とは税理士にしか行えない業務をいいます。
企業や個人が納めるべき税金を代わりに納め、そのために必要な書類も作成し、税金に関する相談を受けるのが税理士です。
税理士事務所の所長は当然税理士ですが、それ以外にも何名かの税理士を抱えている事務所は多くあります。
税理士補助
独占業務は税理士にしかできませんが、それに付随する多くの業務を通じて税理士をサポートするのが税理士補助です。税理士補助をする方の多くは税理士試験の受験生です。税理士試験に合格しても2年の実務経験がないと税理士になれないため、勉強しながら税理士事務所で働き実務経験を積もうという意図があるのでしょう。
実務の力を身につけ、試験に合格して晴れて税理士となり仕事の幅を広げるのがオーソドックスなパターンです。さらに経験を積み独立開業する方もいます。
内勤の事務スタッフ
このほかに、内勤中心の事務スタッフがいます。基本的に外出する機会は少なく、クライアントと直接接することはあまりありません。一般企業の事務職と同じように電話・来客応対・ファイリングなどをするほか、仕訳入力作業など税理士事務所ならではの仕事もあります。正社員は担当の企業を受けもつことが多いため、事務スタッフはパートや派遣社員を中心に構成されているのが一般的です。
その他|税理士事務所ではこんな仕事もある
ほかにも税理士事務所の仕事は多岐にわたります。
たとえば相続税・贈与税の申告です。とくに高齢化がすすむ日本では相続税・贈与税を申告する人が増えると予想されるため、この分野に力を入れている税理士事務所も多くなっています。これに関連して事業継承をサポートするケースもあります。
会計や経営に関するコンサルティングも税理士事務所の仕事です。税務申告などの事務手続自体は、会計ソフトやAIの進化により簡略化されていくでしょう。しかしコンサルティングは税務会計の知識をもとに経営者の考えを整理し、最終的には企業を成長させるという目的がある業務です。
正解がない分野なので難しい面がありますが、生き残りをかけて力を注いでいる税理士事務所も増えています。
これ以外にも多くの業務があり、税理士事務所によって何を得意としているのかが異なります。
- 償却資産税の申告
- 節税対策や予算作成などの相談
- 銀行からの借入サポート
- 税務調査の立ち会い など
実際にどのような仕事内容なのかは面接の際に積極的に質問されるとよいでしょう。あらかじめ詳しく知りたい場合は転職エージェントを通じて情報を得ることも可能です。
転職エージェントを利用すれば忙しい方でも効率的に転職活動ができるため上手に活用してください。
まとめ
税理士事務所では主に中小企業をクライアントとし、決算申告業務や税務相談、年末調整などをおこなっています。また巡回監査などで企業へ出向き、税務会計の知識を経理担当者や経営者へわかりやすく説明する機会も多くあります。
税理士事務所で働くには、税金の知識だけでなくコミュニケーションスキルや提案力なども求められ、やりがいも大きいといえます。
今回紹介した仕事内容をご自身の適性とも照らし、転職活動にお役立てください。
参考サイト
- e-Gov|税理士法
- e-Gov|社会保険労務士法