管理部門・バックオフィスとは、文字通り「後方支援」を意味し、企業の運営を裏側から支える部門や職種の総称です。
顧客と直接対面し、売上を生み出す営業部門やマーケティング部門を「フロントオフィス」と呼ぶのに対し、バックオフィスは直接的には売上を立てません。しかし、企業という組織が円滑に機能し、持続的に成長していくためには絶対に欠かせない存在です。
例えば、社員の給与計算が滞れば組織の信頼は失墜し、契約書のリーガルチェックが疎かになれば企業は深刻なリスクを負います。このように、バックオフィスは企業の「ヒト・モノ・カネ・情報」といった経営資源を管理・最適化し、フロントオフィスが安心して「稼ぐ」活動に専念できる環境を整備する役割を担っています。
また管理部門・バックオフィスの仕事内容と一口に言っても、その仕事内容は経理、人事、総務、法務など多岐にわたります。企業の根幹を支える重要な役割を担いますが、「具体的にどんな職種があるのか」「地味できついイメージがあるけれど、実際のやりがいは?」「未経験からでも転職できるのか」といった疑問や不安を感じている方も多いかもしれません。
本記事は、そうしたバックオフィスへの転職やキャリアを考えるすべての方に向て、バックオフィスの基本的な定義から、主要6職種の詳細な仕事内容を網羅的に解説します。
目次
管理部門の定義と重要性
管理部門の定義
バックオフィスに決まった定義はありませんが、「顧客と直接的な接点を持たず、組織内部の管理・支援業務を担当する部門」とされます。これは「後方支援部門」とも呼ばれ、具体的には経理、財務、人事、労務、総務、法務、情報システムなどが含まれます。
これらの部門の共通点は、その業務が「全社的」であることです。営業部が自部門の売上のために活動するのに対し、経理部は会社全体の「お金」を、人事部は会社全体の「ヒト」を管理します。
つまり、バックオフィスは特定の事業ラインのためではなく、企業全体の土台となるインフラを整備・維持する機能を持っています。日々の業務は、伝票処理、給与計算、データ入力、法的文書の管理など、正確性と緻密性が求められるものが中心です。
フロントオフィスとの役割・目的の違い
バックオフィスを理解する上で最も分かりやすい対比が「フロントオフィス」です。フロントオフィスとは、顧客と直接接点を持ち、収益(売上)を生み出すことを主な目的とする部門を指します。
具体的には、営業、マーケティング、カスタマーサポート、販売職などがこれにあたります。彼らの役割は「稼ぐこと」です。一方、バックオフィスの役割は、フロントオフィスが生み出した収益や、企業活動全体を「管理し、支えること」にあります。
例えば、営業が契約を取ってきても、法務が契約書をレビューし、経理が請求・入金管理を行わなければ、その売上は正式な利益として確定しません。また、人事が優秀な営業担当を採用・育成しなければ、持続的な売上拡大は望めません。
フロントオフィスが「攻め(アクセル)」の役割なら、バックオフィスは「守り(ブレーキとハンドル)」の役割と言えます。どちらが欠けても、企業という車は安全に、目的地へ進むことはできないでしょう。
管理部門の必要性
バックオフィスは直接的な売上を生み出さないため、時にその重要性が見過ごされがちです。しかし、バックオフィス機能が停止すれば、企業は1日も運営できません。なぜなら、バックオフィスは「企業の信頼性・持続性・効率性」を担保する、組織の土台そのものだからです。
仮に経理部門が存在しなければ、誰が請求書を発行し、従業員に給与を支払うのでしょうか。法務部門がなければ、不利な条件の契約を結んでしまい、会社が莫大な損害を被るかもしれません。人事部門がなければ、採用活動も評価制度の運用もできず、組織は活力を失います。
バックオフィスとは、人間で言えば「心臓」や「血液」、「神経系」のようなものです。普段は意識しませんが、それらが機能しなくなれば生命活動が維持できないのと同じです。フロントオフィスが華々しく活躍できるのは、バックオフィスが「当たり前の日常」を正確かつ確実に守り続けているからにほかなりません。
管理部門の主な種類と仕事内容
バックオフィスと一口に言っても、その業務内容は職種によって全く異なります。
企業の「ヒト・モノ・カネ・情報・法務」という経営資源を、それぞれ専門的に扱う部門が存在します。ここでは、バックオフィスの代表的な6つの職種を取り上げ、その具体的な仕事内容を詳しく見ていきましょう。
経理・財務は「カネ」を、人事・労務は「ヒト」を、総務は「モノ(環境)」を、法務は「法務(リスク)」を、情報システムは「情報(ITインフラ)」を、そして一般事務・営業事務は「データ(実務サポート)」を担当します。
ご自身の興味やスキルがどの分野で最も活かせるのか、キャリアを考える上で最も重要なセクションです。それぞれの職種が持つ専門性と役割の違いを理解することで、転職活動の軸が明確になるでしょう。
表:管理部門主要6職種の業務内容・スキル早見表
| 職種 | 主な業務内容(例) | 求められる主要スキル・適性 |
|---|
| ① 経理・財務 | 日次・月次・年次決算、入出金管理、資金調達 | 数値の正確性、簿記知識、計画性 |
|---|
| ② 人事・労務 | 採用活動、人事評価制度の運用、給与計算、社会保険手続き | 傾聴力、守秘義務の遵守、調整力、労働法の知識 |
|---|
| ③ 総務 | 備品・施設管理、社内イベント企画・運営、株主総会運営 | 広い業務範囲への対応力、ホスピタリティ、調整力 |
|---|
| ④ 法務 | 契約書レビュー・作成、コンプライアンス体制構築、法的紛争対応 | 論理的思考力、法律知識、読解力、リスク察知能力 |
|---|
| ⑤ 情報システム | 社内ITインフラ構築・保守、PCキッティング、セキュリティ対策 | IT全般の知識、トラブルシューティング能力、説明能力 |
|---|
| ⑥ 営業事務 | データ入力、書類作成・管理、電話・来客応対、営業サポート | PCスキル(特にExcel)、正確性、スピード、サポート精神 |
|---|
経理・財務|お金の管理と未来を担う
経理と財務は、どちらも企業の「カネ」を扱いますが、その役割は明確に異なります。「経理」の役割は、過去から現在までの企業のお金の流れを正確に「記録・管理」することです。
日々の伝票起票、入出金管理、売掛金・買掛金の管理、そして月次・四半期・年次の決算業務(貸借対照表や損益計算書の作成)などが主な業務です。
一方、「財務」の役割は、経理が作成したデータ(決算書など)に基づき、会社の「未来のお金」を「調達・運用」することです。銀行からの資金調達(融資交渉)、株式発行による資金調達、M&Aの検討、余剰資金の資産運用、予算の策定・管理などが該当します。
中小企業では経理担当者が財務を兼任することも多いですが、大企業では明確に分かれています。経理は「守り」の専門家、財務は「攻め(戦略)」の専門家と言えるでしょう。
人事・労務|「ヒト」に関するすべてを支える
人事と労務は、企業の「ヒト」に関する業務を担当しますが、焦点が異なります。「人事(Human Resources)」は、主に「ヒト」の「活用・開発」に関わる戦略的な業務を担当します。
経営戦略に基づき、どのような人材を「採用」するか、採用した人材をどこに「配置」するか、どのように「教育・研修」するか、そしてどう「評価」し「処遇(昇進・昇給)」に反映させるか、といった制度の設計と運用を担います。
一方、「労務」は、「ヒト」が「安心して働くための環境整備」に関わる実務的な業務を担当します。日々の「勤怠管理」、毎月の「給与計算」、入退社に伴う「社会保険(健康保険・厚生年金)」「労働保険(雇用保険・労災保険)」の手続き、就業規則の管理、安全衛生管理などが中心です。
人事は「攻め」、労務は「守り」の側面が強く、どちらも従業員のモチベーションと会社の健全な運営に直結する重要な仕事です。
総務|働く環境を整える
総務は、バックオフィスの中でも最も業務範囲が広く、「他部門が担当しないあらゆる業務」を引き受ける「社内の万屋(よろずや)」的存在です。
そのミッションは、従業員が安全かつ快適に働ける「環境」を整備・維持すること。具体的な業務は多岐にわたり
- オフィスの賃貸契約・レイアウト変更・維持管理といった「施設管理」
- PCや文房具などの「備品管理・発注」、社用携帯や名刺の手配
- 社内規程の策定・改廃、防災・防犯対策
- 社内イベント(入社式、社員総会、忘年会など)の企画・運営
- 株主総会や取締役会の運営支援
- 慶弔対応、会社によっては広報やIR(投資家向け広報)の一部
など担うこともあります。特定の専門性というよりは、あらゆる事態に柔軟に対応する「調整力」と「対応力」、そして従業員を支える「ホスピタリティ」が求められる、組織の潤滑油とも言える職種です。
法務|会社を法律面から守る
法務は、企業のあらゆる活動が「法律」に則って正しく行われるよう監督し、法的リスクから会社を守る専門職です。主な業務は、取引先と交わす「契約書のレビュー・作成・交渉」です。
一言一句の解釈が将来的に大きなリスクにつながる可能性があるため、極めて緻密な確認が求められます。また、全社的な「コンプライアンス(法令遵守)体制の構築」も重要な役割です。社員向けの法務研修の実施、社内規程の整備、内部通報制度の運用などを通じて、不祥事の発生を未然に防ぎます。
万が一、顧客とのトラブル、他社からの訴訟、行政による立ち入り検査などの「法的トラブル(紛争)」が発生した際には、顧問弁護士と連携しながら対応の最前線に立ちます。
ビジネスのグローバル化や法改正の増加に伴い、法務は単なる「守り」に留まらず、新規事業が適法かを判断する「戦略法務」としての重要性も増している、高度な専門職です。
情報システム|ITインフラを整備・保守する
情報システム部門(通称:情シス)は、企業の「ITインフラ」全般を整備・保守・運用する、社内エンジニア(社内SE)集団です 1。現代の企業活動はITシステムなしには成り立たないため、その役割は極めて重要です。
主な業務は、従業員が使用するPCやスマートフォンの選定・設定(キッティング)・配布・管理、社内ネットワーク(Wi-Fiなど)やサーバーの構築・運用・保守、そして会計システムや人事システムなど基幹システムの導入・管理です。
「PCが動かない」「システムにログインできない」といった従業員からの問い合わせに対応する「ヘルプデスク業務」も大きな割合を占めます。
さらに、近年最も重要性が高まっているのが「セキュリティ対策」です 1。ウイルス対策ソフトの導入・管理、不正アクセスの監視、従業員へのセキュリティ教育などを通じて、企業の重要な情報資産をサイバー攻撃から守る、組織のIT面における守護神です。
一般事務・営業事務|データと実務をサポート
「バックオフィス」が部門(経理・人事など)を指すことが多いのに対し、「事務職」は特定の業務(データ処理や書類作成)を担う職種を指します。
一般事務や営業事務は、バックオフィス部門、あるいはフロントオフィス部門に所属し、日々の実務をサポートする役割です。「一般事務」は、特定の部門に限定されず、全社的なサポート業務を行います。代表的な業務は、データ入力、書類作成(Word, Excel, PowerPoint)、ファイリング、電話・来客応対、郵便物の発送・仕分けなどです。
一方、「営業事務」は、営業部門に所属し、営業担当者のサポートに特化します。見積書・請求書の作成、受発注処理、納期の確認・調整、顧客からの電話応対、営業資料の作成補助などが主な業務です。
どちらも、他者のサポートを通じて組織に貢献する職種であり、正確な「PCスキル」と円滑な「コミュニケーション能力」が不可欠です。
企業が管理部門を置くメリットを規模・フェーズで解説
ベンチャー企業(創業期):事業継続の基盤構築
創業期のベンチャー企業において、管理部門(多くの場合、社長や創業メンバーが兼任)の役割は、「事業の土台を守る防波堤」です。このフェーズでは、プロダクト開発や営業といったフロント業務にリソースが集中しがちですが、最低限の管理機能がなければ事業の継続自体が危うくなります。
最大の必要性は、キャッシュフローの管理です。売上があっても、入金と支払いのタイミングがずれれば資金はショートします(黒字倒産)。日々の資金繰りを正確に把握し、資金調達のタイミングを見極めることは、企業の生命線です。
次に、法務・労務リスクの回避が挙げられます。例えば、初めて従業員を雇用する際の雇用契約書の整備、業務委託契約書の内容チェック、基本的な就業規則の作成などです。これらを疎かにすると、将来的に法的なトラブルに発展し、時間も資金も奪われる可能性があります。
管理部門を整備する(あるいはアウトソーシングを活用する)直接的なメリットは、経営者が「事業を創る」という本来の仕事に集中できる環境が整うことです。
日々の記帳代行や支払い業務、社会保険の手続きといった定型業務から解放されるだけでも、経営者の生産性は劇的に向上します。創業期の管理部門は、派手さはありませんが、企業が安全に走り続けるための「守り」として不可欠な存在です。
中小企業(成長期):属人化の脱却と組織化
事業が軌道に乗り、従業員が数十人規模に増加する成長期の中小企業では、管理部門の役割は「守り」**「仕組み化による効率化と組織基盤の安定」へとシフトします。創業期のような属人的な対応や兼任体制では、増加する業務量と複雑性に対応できなくなり、組織の成長の「歪み」が生じ始めます。
このフェーズでの必要性は、まず経理業務の精緻化です。月次決算を早期化し、部門別会計などを導入することで、経営者は「どの事業が儲かっているのか」「どこに無駄があるのか」を正確に把握できます。これにより、どんぶり勘定から脱却し、データに基づいた迅速な経営判断が可能になります。
また、人事・労務体制の整備も急務です。従業員が増えれば、公平な評価制度や給与体系、教育研修の仕組みが必要になります。同時に、勤怠管理の徹底、残業代の適正な支払い、社会保険手続きの正確な運用など、コンプライアンス(法令遵守)の基盤を固める必要があります。
管理部門を強化するメリットは、組織的な経営基盤を確立し、さらなる成長に耐えうる体制を構築できる点にあります。業務プロセスを標準化することで属人化を排除し、生産性を向上させます。しっかりとした管理体制は、従業員の安心感や帰属意識にも繋がり、組織全体の安定化に寄与します。
IPO準備企業(成長期→上場):社会的信用の獲得
IPO(新規株式公開)を目指すフェーズに入ると、管理部門の重要性は飛躍的に高まります。この段階では、管理部門は単なるバックオフィスではなく、「上場審査をクリアするための最重要部門」へと変貌します。上場企業には、株主(投資家)保護の観点から、極めて高度な内部統制とコーポレート・ガバナンス(企業統治)が求められるためです。
最大の必要性は、監査法人や証券取引所の厳しい審査に耐えうる管理体制の構築です。具体的には、経理部門は、上場企業会計基準に準拠した正確な財務諸表を作成し、迅速な月次・四半期決算を行える体制を整備しなければなりません。予算実績管理の精度も厳しく問われます。
人事労務部門は、労働関連法規の完全な遵守(サービス残業の撲滅など)が絶対条件です。法務部門は、取締役会や株主総会の適切な運営、各種規程の整備、反社会的勢力の排除、内部通報制度の設置など、ガバナンスの根幹を担います。
IPO準備企業が管理部門を強化するメリットは、上場達成そのものはもちろんですが、このプロセスを通じて「公器」としての社会的信用を得るための経営基盤を構築できる点にあります。社内のルールが明確化され、リスク管理体制が強化されることで、企業はより透明性を持ち、持続的な成長が可能になります。管理部門の整備なくしてIPOはあり得ません。
上場企業:上場後の管理部門体制の強化・持続的成長と信頼維持
上場を果たした後も、管理部門の役割は終わりません。むしろ、上場企業として市場や投資家から常に厳しい監視の目にさらされるため、「継続的な企業価値の向上と社会的信頼の維持」のために、管理部門の体制強化は不可欠です。
上場後の管理部門には、まず適時・適切な情報開示(ディスクロージャー)の責任があります。金融商品取引法に基づき、有価証券報告書や決算短信を正確かつ遅滞なく開示し続ける必要があります。これには、経理・財務部門の高度な専門性が求められます。
また、内部統制の継続的な運用・改善(J-SOX対応)も重要です。業務プロセスが適切に運用されているかを常にモニタリングし、評価・改善し続けることで、不祥事を防ぎ、経営の透明性を担保します。
さらに、近年ではIR(インベスター・リレーションズ)活動の重要性が増しています。
管理部門は、投資家との対話(決算説明会やIRミーティング)を主導し、自社の経営戦略や財務状況を的確に説明する役割を担います。
M&Aやグローバル展開といった高度な経営戦略を実行する際の財務戦略、高度な法務、国際税務、さらにはESG(環境・社会・ガバナンス)への対応など、管理部門は企業の持続的成長を支える「戦略的パートナー」として、その機能を強化し続ける必要があるのです。
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管理部門の構築方法を7つのステップで解説
管理部門の構築は、企業経営の基盤を支えるために不可欠なプロセスです。以下に、体系的な7つのステップを提示し、で詳しく解説します。
管理部門長の選定
まず最初のステップは、管理部門全体を統括する「管理部門長」を選定することです。
管理部門長は、部門全体の業務設計と運営を担い、マネジメント能力と組織観を兼ね備えた人材であることが求められます。経営者自らが管理部門長を兼任する場合もありますが、事業の拡大や複雑化に伴い、専門の管理部門長を任命することで、より効率的な運営と責任分担が可能となります。
選定後は、管理部門長の指導のもとで具体的な業務範囲や組織体制を明確にし、管理部門独自のガバナンス・ルール策定が必要です。自社のビジョンや事業戦略と管理部門の目的をしっかりと結びつけ、部門長が旗振り役となって管理部門のメンバーを率いる体制を整えましょう。
メンバーの要件定義
管理部門を構成するメンバーの選定は、業務領域に応じた専門性を重視して行うべきです。
たとえば経理、人事、総務、法務、経営企画、内部監査など、各担当分野の知識と経験を持つ人材が理想です。IPO(株式上場)や事業拡大を見据える場合は、財務や内部統制、コンプライアンスの専門家も必要になります。
管理部門長が中心となり、組織の現状や将来の成長段階にあわせた人材要件を設計することが不可欠です。人材不足の場合は外部専門家の採用やBPO(業務委託)サービスの活用も検討し、事業環境や規模に合わせた柔軟な体制づくりを目指します。
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適切な人員配置
次に、管理部門の業務負荷と専門性に応じて最適な人員配置を行います。一般的には、各担当領域の責任者を含め6~7名規模の体制が推奨されますが、IPOや大規模な組織変革の局面では外部リソースの活用や業務兼任、システム導入による効率化も重要です。
業務効率やコスト最適化を念頭に、人員配置を柔軟に工夫することで、無駄や過負荷を防げます。必要に応じて職務分掌(業務範囲)や権限規定を明示し、円滑なコミュニケーション環境を整備しましょう。メンバー間や関連部門との協力体制も、成果を左右する要素の一つです。
外部人材・委託の活用
管理部門は専門的な知識や最新トレンドへの対応が求められる場面も多く、社内で十分なリソースが確保できない場合は外部人材の採用や、専門業務の委託(アウトソーシング)も効果的です。
特にIPOや大規模な組織再編に際しては、IPOコンサルタントや社会保険労務士、会計士など、外部専門家からアドバイスや指導を受けることが成功への近道となります。
社内外のリソースを適切に組み合わせて体制を整えることで、業務品質の向上と効率化を同時に実現できます。
業務プロセスの設計・最適化
管理業務は日常的なルーチンに加え、定型業務と非定型業務が混在します。そこで業務ごとの標準化(マニュアル化)・業務フローの見直しを行い、担当者が迷わず実行できる環境を整えます。
業務プロセスの可視化・標準化は、効率化だけでなくリスク管理やコンプライアンス強化にもつながります。さらにデジタル化(システム導入)やDX推進なども検討し、作業の属人化や非効率を回避しましょう。
管理部門の役割や目標、KPIを明示し、継続的な業務改善を仕組み化することが鍵です。
コミュニケーションと連携強化
管理部門は社内の各部署を円滑に支援する役割も持ちます。従業員や経営層、関連部門と定期的なコミュニケーションを行い、情報共有や意見交換を積極的に推進しましょう。
特に現場との連携(共創型アプローチ)は、管理部門への理解や協力を得る上で有効です。お知らせや問い合わせ対応、ルール改正時の説明など、丁寧な情報発信とフィードバック体制を構築することで、社内の心理的安全性や組織文化の醸成にも寄与します。
評価指標と改善サイクルの導入
最後に、管理部門の活動成果や業務効率を「見える化」し、客観的な評価指標(KPIや目標達成度)を設けて定期的な振り返り・改善活動を実施することが大切です。
たとえば業務処理速度、コスト削減率、ミス件数、従業員満足度などを定量的に測定し、課題を抽出します。定例会議や振り返り会を設け、現状のレビューと次回への改善策を組織的に議論・実行しましょう。
PDCAサイクルの定着は、管理部門の持続可能な成長・発展につながります。
管理部門を構築するうえで重要な3つの要件
管理部門構築において重要となる3つの要件について解説します。
管理部門長にはどのような人物を選定すべきか
管理部門長は、単なる「守りの番人」ではなく、「経営者の戦略的パートナー」としての資質が求められます。このポジションの選定は、企業の成長フェーズやガバナンス体制に直結する重要な決定です。
まず必須なのは、高い経営視点と倫理観です。管理部門長は、CFO(最高財務責任者)やCHO(最高人事責任者)の役割を兼ねることが多く、経営会議などで会社の数字や組織の「ファクト」に基づき、時に経営者に対しても臆せず提言できる必要があります。
同時に、会社の機密情報や従業員の個人情報、財務状況という「金庫」を守る立場として、絶対に信頼できる誠実性が不可欠です。
次に、専門知識と現場調整能力のバランスが重要です。経理・財務・法務・労務・総務など広範な知識が求められますが、すべてに精通している必要はありません。むしろ、各分野の専門家(社内メンバーや外部の弁護士・会計士)を適切にマネジメントし、彼らの知見を会社の意思決定に活かせる「使いこなす力」が重要です。
最後に、「攻め」と「守り」のバランス感覚です。管理部門はルール(守り)を徹底するあまり、事業部門のスピードを阻害する「ブレーキ役」になりがちです。しかし、優れた管理部門長は、事業成長(攻め)を止めないために、リスクを正しく評価し、安全な「道筋」や「仕組み」を整備・提案できます。会社の成長を支える基盤を、柔軟かつ強固に構築できる人物が理想です。
メンバーの要件はどの程度のレベルにすべきか
管理部門のメンバーに求められるレベルは、企業のフェーズによって大きく異なりますが、共通して「正確性」「誠実性(口の堅さ)」そして「サービスマインド」が基盤となります。
創業期・成長期(数十人規模まで)
このフェーズでは、一人が複数の役割を担うことが多いため、高度な専門性よりも「幅広さ」と「柔軟性」が重視されます。「経理だけ」ではなく、労務手続きや総務的な雑務まで、フットワーク軽く対応できる「ゼネラリスト」的な素養が求められます。
決まった業務フローがないことも多いため、自ら調べ、学びながら業務を構築できる「自走力」と、現場(他部門)をサポートしようとする「当事者意識」が重要です。
IPO準備・上場企業(組織化のフェーズ)
体制が高度化するにつれ、メンバーにも「専門性」が求められるようになります。経理であれば月次決算や開示業務、労務であれば複雑な法改正への対応や労務リスク管理など、特定の領域を深く担当できる「スペシャリスト」が必要になります。
このレベルでは、日々のオペレーションを正確に回す実務能力に加え、業務プロセスの改善提案や、規程に基づいた厳格な運用ができる「規律性」が求められます。いずれのフェーズでも、管理部門は社内の機密情報に触れるため、信頼できる人物であることは大前提となります。
管理部門をアウトソーシング活用するメリット・デメリット
管理部門の構築において、すべてを内製化(社内の人材で賄うこと)が最適とは限りません。外部リソースの活用は、企業の成長戦略において有効な選択肢ですが、メリットとデメリットの理解が不可欠です。
メリット
- 専門性の即時確保
社内にノウハウがない高度な業務(税務申告、法務レビュー、複雑な労務相談など)を、弁護士や税理士、社労士といった専門家に任せられます。
- コスト変動費化
正社員を雇用する場合の固定費(人件費、社会保険料、教育費)を削減できます。業務量に応じて必要な分だけ依頼できるため、特にリソースが限られる創業期に有効です。
- コア業務への集中
記帳代行や給与計算などの定型業務(ノンコア業務)を外部に切り出すことで、社内のメンバーは分析や企画、社内調整といった、より付加価値の高い「コア業務」に集中できます。
デメリット
- コミュニケーションコストとスピード
社内の実情や特有のルールを正確に伝える手間(コミュニケーションコスト)が発生します。また、社内担当者のように「今すぐ」といった柔軟な対応や、微妙なニュアンスの共有が難しい場合があります。
- ノウハウの非蓄積
業務を「丸投げ」してしまうと、社内に実務ノウハウが蓄積されません。将来的に内製化を目指す場合、障害になる可能性があります。
- 情報漏洩リスク
会社の財務情報や人事情報といった機密データを外部に出すことになるため、委託先のセキュリティ体制や契約内容を厳格に管理する必要があります。
管理部門の採用事情について
2025年の管理部門の採用市場は、専門スキルを持つ人材への需要が高い一方で、求職者にとっては競争が激化している状況です。企業の採用活動は、単なる欠員補充から、より戦略的な人材獲得へとシフトしています。
管理部門の採用市場は、慢性的な「専門人材不足」と、企業が求める役割の「高度化・多様化」という2つの大きなトレンドに特徴づけられます。
かつて管理部門(バックオフィス)は、定型業務を正確にこなす「守り」のイメージが強くありましたが、現在は経営環境の変化に伴い、その役割が大きく変化しています。
採用市場の概況
2025年の管理部門における新規求人数は、前年同期比で約120%増と活況を呈しています。
特に労務関連のポジションで高い需要が見られます。 しかし、直近のデータでは、景気の先行き不透明感から企業が採用計画に慎重になり、求人数が前期比で約93%に減少する一方、転職登録者数は103%と増加傾向にあります。 この結果、求職者一人当たりの求人数が減少し、採用のハードルが上がっている状況です。
参考:doda:2025年2月発行|職種別マーケットレポート|管理部門
市場の需給バランス
管理部門の採用市場は「経験豊富な即戦力の奪い合い」となっています。
- 中小・ベンチャー企業の課題
知名度や提示年収で大手企業に劣る中小・ベンチャー企業は、優秀な管理部門人材の獲得に苦戦しがちです。ただし、「裁量の大きさ」「経営陣との近さ」「組織をゼロから作る経験」といった魅力を打ち出すことで、大手からの転職者を惹きつけるケースも増えています。
- ミスマッチの発生
企業側は「攻め」や「DX推進」を期待しているのに対し、候補者側は従来の「守り」の定型業務の経験しかない、というミスマッチも起こりやすい構造になっています。
採用が難しい理由
管理部門への転職が難しいとされる背景には、いくつかの理由があります。
上記のような「経営視点」「DXスキル」「高度な専門性」を併せ持つ人材は市場に少なく、非常に希少価値が高まっています。特に、IPO準備経験者、連結決算経験者、戦略人事の経験者などは、多くの企業が求めるため採用難易度は極めて高い状況です。
また、ワークライフバランスを重視する求職者からの人気が高く、競争率が非常に高いことが挙げられます。
次に営業職などと比べて求人の絶対数が少なく、一つのポジションに多くの応募が集中する傾向があります。 そして第三に、企業側が即戦力を求める傾向が強いため、未経験者や経験の浅い候補者にとっては採用のハードルが高くなっています。 これらの要因が重なり、管理部門の採用は求職者にとって厳しい市場となっています。
今後の採用市場の見通しと課題
2026年に向けて、管理部門の採用市場は「売り手市場」が継続すると見られています。 特に、デジタルトランスフォーメーション(DX)やAI導入の加速に伴い、これらの技術を業務に活用できる専門人材の需要が拡大します。 具体的には、セキュリティ体制の構築を担える人材や、AIを活用して業務効率化を推進できる人材の市場価値が高まるでしょう。
また、働き方の多様化も進み、正社員採用に加えて、業務委託や副業、リモート人材といった柔軟な形態での人材活用が一般化すると予測されます。 これにより、企業は必要なスキルを持つ人材を、必要な時に確保する動きを強めるでしょう。一方で、AIが請求書処理や勤怠管理などの定型業務を代行するようになり、バックオフィス業務のあり方そのものが変化していく可能性もあります。
主な課題
最大の課題は、労働人口の減少に伴う慢性的な人材不足と、それに起因する採用競争の激化です。 特に、高度な専門性を持つ人材の獲得競争は局所的に過熱し、採用活動の長期化や採用コストの高騰を招く可能性があります。 管理部門はもともと少人数で運営されることが多く、採用枠が少ないため、一つの求人に多数の応募が集中し、高い競争率が続く見込みです。
このような状況下で、企業は従来の「待ち」の採用姿勢から、企業側から積極的に候補者にアプローチする「攻めの採用」への転換を迫られます。 採用管理システム(ATS)の活用による選考プロセスの効率化や、採用代行(RPO)サービスの利用も、競争を勝ち抜くための重要な選択肢となるでしょう。 企業は、採用戦略そのものを見直し、多様な採用チャネルを駆使して、自社に最適な人材を確保していく必要があります。
管理部門が強い会社を作るには
管理部門が強い会社とは、単に「守り」が堅いだけでなく、管理部門が「攻め」の起点となり、経営戦略と事業運営を強力にサポートしている会社を指します。そうした強靭な管理部門を構築するためには、以下の5つの要素が不可欠です。
経営トップによる「管理部門の役割」の明確な定義
強い管理部門を作るための第一歩は、経営トップが「管理部門はコストセンターではなく、経営のパートナーである」と明確に定義し、コミットすることです。管理部門の重要性を経営陣が理解していない企業では、管理部門は単なる「事務処理係」や「コスト削減対象」と見なされ、必要な投資も人材も集まりません。
経営者は、管理部門を「事業のブレーキ役」ではなく、「安全かつ最短で目的地に着くためのナビゲーター」として位置づける必要があります。そして、その役割を全社(特に事業部門)に対して繰り返し発信し、理解を促さなければなりません。
具体的には、管理部門長を経営会議の意思決定メンバーに加え、戦略立案の初期段階から参画させることが重要です。数字(財務)と人(組織)という経営の根幹を握る部門として、事業部門と対等に議論し、提言できる体制をトップダウンで構築することが、強い管理部門への変革の起点となります。
事業部門への「サービスマインド」と「対話」の徹底
管理部門が「お役所仕事」と揶揄され、事業部門と対立するようでは、強い会社は作れません。強い管理部門は、**「社内(事業部門)の課題を解決するサービス提供者」**であるという意識を徹底しています。
彼らは、ルールを盾に「できません」と回答するのではなく、事業部門の目的を理解した上で、「どうすればリスクを最小限にして実現できるか」という代替案を提示します。例えば、法務部門が単に契約書のリスクを指摘するだけでなく、ビジネスを前に進めるための交渉材料や契約条項を提案するような姿勢です。
これを実現するには、管理部門から事業部門へ積極的に「対話」を仕掛けることが不可欠です。定期的なヒアリングや業務プロセスへの参加を通じて現場のニーズを正確に把握し、非効率な社内ルールや申請フローは柔軟に見直していく必要があります。事業部門の「ありがとう」が管理部門の評価指標となるような、サービスマインドの醸成が重要です。
「攻め」と「守り」のバランスが取れる管理部門長の登用
管理部門が強い会社には、必ず優れた管理部門長が存在します。このポジションには、「経営視点」「高度な倫理観」「事業への理解」、そして何より「攻めと守りのバランス感覚」が求められます。
「守り」一辺倒でコンプライアンスを振りかざすだけでは、事業のスピードを殺してしまいます。逆に「攻め」ばかりでリスク管理を疎かにすれば、いずれ不祥事や重大な損失を招き、会社を危機に陥れます。
理想的な管理部門長は、CFO(最高財務責任者)やCHRO(最高人事責任者)として、経営者の「右腕」あるいは「独立した提言者」として機能します。彼らは、事業部門がアクセルを踏む場面では、安全な「道筋」を整備し、会社が取るべきリスクと避けるべきリスクを明確に仕分けします。
こうしたキーパーソンを見抜き、登用し、そして十分な権限と予算を与えることが、経営者の重要な仕事です。
DX(デジタルトランスフォーメーション)への積極的な投資
強い管理部門は、例外なく「効率的」です。そして、その効率性を担保するのがDX(デジタルトランスフォーメーション)への積極的な投資です。いまだに紙の請求書やハンコでの稟議、Excelでの手作業によるデータ集計に追われているようでは、管理部門のメンバーは疲弊し、付加価値の高い仕事はできません。
目的は、人を減らすことではなく、「人がやるべき仕事にリソースを集中させる」ことです。クラウド会計、人事管理システム(HR Tech)、電子契約、経費精算システム、RPAなどを積極的に導入し、定型業務(オペレーション)は徹底的に自動化・効率化します。
これにより創出された時間を、管理部門は「分析」「企画」「戦略立案」「事業部門のサポート」といった「攻め」の業務に振り向けます。DXへの投資を「コスト」ではなく「未来への投資」と捉えられるかどうかが、企業の競争力を左右します。
専門性の高い人材の採用・育成と正当な評価
管理部門の業務(経理、財務、法務、労務)は、法律や会計基準など、高度な専門性が要求される領域です。これらの専門性を維持・向上させるための「仕組み」と「文化」が不可欠です。
具体的には、法改正や新基準に対応するための継続的な研修や学習機会の提供、資格取得支援などが挙げられます。また、管理部門内でジョブローテーションを行い、経理の専門家が財務や経営企画も理解するといった、多角的な視点を持つ人材を育成することも重要です。
さらに見落とされがちなのが「正当な評価」です。
管理部門の仕事は、成果が数字として表れにくい「縁の下の力持ち」的な側面があります。しかし、ミスなく業務を回す「守り」の貢献や、業務プロセス改善といった「効率化」への貢献を正しく評価し、キャリアパスを明確に示す人事制度がなければ、優秀な人材は定着しません。
プロフェッショナル集団として尊重する文化を醸成することが、強い管理部門の土台となります。